2019年03月08日

10億円はどうやって銀行間を移動するのか

カルロス・ゴーンは10億の保釈金で解放されたという。調べれば史上最高額の保釈金は牛肉偽装事件の際の20億とか。

こんな大金、どうやって動かすの?

振込のしくみ

振込と現金の関係

振込依頼がされたその場では送金情報だけをやりとりして、後から現金(札束)が動いているんだろうとなんとなくわかる。かといって異なる銀行間を現金輸送車が行ったり来たりするのも違う気がする。

振り込む口座と振り込まれる口座が同じ銀行、つまり自行内であれば話は難しくない。銀行全体での残高は変わらないのでそれぞれの口座の金額情報を書き換えればいい。支店から支店へと実際に現金を動かす必要はない。そもそも支店ごとに置いてある現金はそこの口座の額とは関係ない。逆にもしそんな運用をしたら、口座を開設した支店とは別の支店で引き出したらすぐに枯渇してしまう。

では他行間の場合はどうやって資産のやりとりをしているのかというと、日本銀行を使う。

日本銀行は「銀行の銀行」とも呼ばれるように、各銀行は日銀に口座を持っている。たとえば三井住友銀行からみずほ銀行への振込があったときは、日銀にある三井住友銀行自身の口座からみずほの口座に資金が動くが、ここでもまだ現金は動かない。

その後、各銀行は必要に応じて日銀の口座から現金を引き出して支店に置く。例えば「給料日なので引き出しが増えそうだ」とか「顧客から大口の引き出しの連絡があった」とか。

銀行間をつなぐ方法

現金の流れはわかったところで、次は振込依頼の流れが気になる。なんせ銀行で使われているシステムは各行でバラバラ。オンラインバンクの使い勝手も ATM の操作手順も異なる。

どの銀行でもすることは同じだから連携は簡単でしょう?と思いがちだが、機械相手なので融通が利かない。ATM で例えれば表示されるボタンの位置や文字レベルの話で、「A銀行では画面右からXセンチの位置にある『振り込み』を押す」「B銀行では『お取引開始』を押す→『振込依頼』を押す」くらいに指示を変えないといけない。

各行同士で別々に連携を取ろうとすると組み合わせの数が膨大になるどころか、ネットワークのつなぎ方も面倒なことになる。電話が発明されていなくて、個別に糸電話を配るくらいの話だ。解決するにはどこかに共通の窓口を置く必要がある。

ここで、振込の流れを図で見てみよう。右上の「学生」から出ている点線が始点で半時計回りに進む。

振込フロー
日本銀行福島支店 より引用

銀行と日銀の間にある、「全国銀行データ通信システム」(全銀システム)がポイント。日銀を除くほぼすべての金融機関が加盟する、全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)が運営している。この全銀システムがハブとなって各銀行の振込依頼をさばいている。

一日の流れとしては、8時30分〜15時30分(時期により延長あり)に各銀行から振込依頼を受け付け、相手先銀行に通知する。日中は各銀行の日銀口座に変動はなく、締め後に一日の取引を計算し、差額だけを16時15分に決済する。

全銀システムが休止している間は他行間の振込ができない。 主に地方銀行で「当日他行宛は14時まで」とあるのは、全銀システムの稼働時間内に処理が確実に終わるようにするため。 また2018年10月にはサブシステムを時間外に運用(従来のコアタイムに対してモアタイムと呼称)、これにより他行間の24時間振込が可能になった。

取引から決済までに間があるので、データのやり取りは終わったのに実際の金が動かせなかったという問題が起こりうる。たとえば朝に振り込みをした銀行が夕方の決済までに破綻してしまうと、振り込まれた側の銀行はその資金を回収できない。そのリスク対策として、加盟金融機関に担保を差し入れさせたり、問題が起きた際に立替ができるような資金供給ルートを確保していたりする。

日銀ネット

それでも巨額になると万が一の一発で仕組み全体が吹っ飛ぶ。

そのため1億円以上の振込では、日銀の決済システム「日銀ネット」に切り替えて1件ごとに処理を行う(2011年〜)。こちらは振込の発信者側の銀行(仕向金融機関)側の資金決済が完了したことを受けてから、受取人(被仕向金融機関)に振込通知を行う。 決済できなかったときは差し戻しとなるため、資金不足による決済リスクが起きないようになっている。

日銀ネットのように決済と依頼がトランザクションになっているものを即時グロス決済、前述の入金依頼と資産決済が分かれているものを時点ネット決済と呼ぶ。

全銀システムがハイブリッドの理由

全銀ネットに具体的な記述はないし経済は素人なのでよくわからないが、日銀ネット導入時のプレスリリースなどを読む限りは利便性と信頼性のバランスを取ったように見える。

リスク対策としては即時グロス決済が優れているが、時点ネット決済は最終的に差額の処理だけを行えばいいので手軽である。きっとシステムの負荷も軽くなるのだろう。また、即時グロス決済では返金・入金のタイミングがずれるとデッドロックが発生することがある。

旅人が宿屋に払ったお金で、宿屋の主人と肉屋と娼婦が順にツケを支払って、最後に旅人は部屋が気に入らずに返金してもらって出ていき、誰も損せず幸せになったって話を思い出した。

参考

1億円以上の振込の実態

全銀ネットが律儀に統計取ってるので見てみた。3段に分かれている統計の中段、「大口内為取引」が対象。おおよそ全取引の0.17%で金額の7割を占めている。(正直なところ前項の「全銀システムパンフレット」に記載の2013年の統計と割合は変わらない)

単純に割ると1件平均8,300億円になったが、たぶん偏りがすごいと思うから正確ではない。

振込の上限

10億ともなると分けて振り込まないといけないのかと思ったが、全銀で取り扱える金額の上限は特に見つからなかった。

個人向けネットバンキングだと1,000万円が上限のところが多いが、某都市銀行のEB(法人ネットバンキング)の入力上限は99,999,999,999円(11桁、1兆円未満)だった。

実際のところは窓口に行きさえすれば天井知らずなのではないか。

不動産売買では億単位の振込もあるというで調べると競売の保管金用の依頼書で11桁のものが見つかった。他にも振込依頼書の記入例を画像検索したところ、三井住友が11桁、みずほと三菱は10桁。ゆうちょ銀行は預け入れ額が上限1,300万円(もうすぐ上がるらしいが)なのでそれ以上の振込はできないはずなんだが、振込依頼書は11桁あるのが不思議。

おまけ: 保釈金の収め方

発端が「10億の振込ってどうするんだ」なのでここで終わってもいいけど、せっかくなので保釈金の収め方についても調べてみた。

基本は裁判所に現金か小切手持参。実際にライブドア事件や村上ファンド事件での億単位の保釈金は小切手で支払われている。
赴かなくていいのは電子納付。これはペイジーなので普通の税金や通販の振込感覚だ。ペイジーの規格としての上限は見つからなかったが、これも銀行側で制限がある。

それぞれのデメリット。

  • 現金→持ち歩くの怖い。現金計数機を通すので億単位では時間がかかる。
  • 小切手→地方の裁判所では慣れていないのか渋られる。
  • 電子納付→反映まで時間がかかる。弁護士向けのtipsで「納付したら裁判所に電話しよう」などとするものがちらほら。

また裁判所が認めた場合は株券など有価証券でも収めることができる。(刑事訴訟法第94条)
同じ条文では雇い主や親兄弟など被告人以外が書いた保証書でも金に代えることができるとあり、どうしても保釈金が積めないときはこちらが使われるのだろう。(他に値下げ交渉もあるとか)

あとは振込でも可能な記述を見つけた。

東京地裁によると、保釈保証金の納付方法は現金と振り込みと電子納付の3通り。現金を裁判所の出納課に直接納付する場合、常識の時間の範囲で臨機応変に対応する。

日刊スポーツ 2019年3月5日: 保釈金の納付方法は3通り 電子決済サービスも可能

小切手のデメリットでもあったように、どうやら地裁によって細かい対応は違うようだ。
逆に保釈金が返ってくるときには裁判所からの振込か日銀小切手。

参考

posted by かぷらす at 19:00| Comment(0) | 調査 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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